SPECIAL

スペシャルインタビュー


キング・アミューズメント・
クリエイティブ本部長

中西 豪

パッケージ販売からIPビジネスへ。
加速する収益構造の変化とリアルライブ開催中止という苦渋の決断
かつてのキングレコードの収益の柱は、音楽・映像共にCDやDVD、Blu-rayといったパッケージ商品の販売でした。それが、インターネットの普及により、販売方法も店舗からネット通販へと移行。さらにデジタル配信のためのプラットフォームが多様化し、パッケージビジネスからIPビジネスへと収益構造も変化しています。

その流れは、コロナ禍以前からのもので、影響が少ないというよりむしろ、生活様式の変化、すなわち自粛やテレワークの促進により自宅時間が増えたことで加速したと言えます。実際、当部署で制作したアニメの本数は、コロナ禍以前の2020年度よりも2021年度の方が増加しています。

しかし、所属アーティストにとって重要な活動の場であり、ファンとの交流の機会でもあるライブコンサートについては、感染拡大防止の観点から、開催が難しくなってしまいました。当部署でも、たとえば、座席の間隔を開けて人数を制限し、マスク着用で声援を遠慮していただくなど、さまざまな方法を模索しました。しかし、それではファンのフラストレーションが溜まってしまう。

やはりライブでは、ファンが一堂に集まって盛り上がってこそ楽しめるという結論に達し、コロナ禍終息まで慎重に判断することにしました。これは、収益上のダメージも大きかったし、何よりファンの方々に忍耐をお願いする苦渋の決断でした。この開催中止期間は、想いをエネルギーとして溜めこみ、再開した時に一気に盛り上がることを楽しみに待つための時間と位置付けて、YouTubeチャンネルや無観客配信等を通じてファンにメッセージを発信しています。

「考える」時間を創出することでコロナ禍という逆境を成長の機会へと変換させる
コロナ禍は、制作の現場の仕事の進め方にも大きな影響を及ぼしました。それまでは、それぞれの担当者が直接集まりミーティングを重ねながら進めていましたが、感染拡大防止上、それも難しくなりました。もちろん、オンラインによる会議等で代替はできますが、直接顔を合わせるからこそ得られる空気感のコミュニケーションや、活発な意見交換は難しくなりました。

しかし、それまでの作品の締め切りに追われるタイムスケジュールが変わり余裕が生まれたことで、一人ひとりがいかにこの状況を乗り切るか、喜んでもらえる作品を送り出せるか、「考える」時間が増えるというメリットも生まれました。

1本のアニメの制作には、多くの人間が関わっています。企画・制作・宣伝・ライツ等それぞれの部署の人間が、それぞれの立場から意見を出し合い、協力して、組織力で作品を生み出しています。それがある意味、キングレコードらしさであると思います。それだけに一人ひとりの「考える」時間が増えたことは、それぞれが成長する絶好の機会でもあるわけです。これまで経験したこともないコロナ禍という逆境を、ネガティブに捉えることは容易です。こういう状況だからこそ、何かできることがあるのではないか考え、カタチにする。

一人ひとりにそうした意識と情熱があることがキングレコードらしさの基盤であり、それを育て、未来に継承していくことが私の責務なのだと思っています。

さいごに
私自身が経験したエピソードを紹介します。入社して数年後、オリジナルアニメ作品のプロデュースを担当する上司の元で仕事をしていたのですが、ある時、思い切って「主題歌を歌うアーティストの選定を自分の任せてくれないか」と申し出たところ、「いいよ。その代わりオリコン15位に入れなさい」と。上司からすれば、それぐらいの覚悟と責任をもってやれと発破をかけたのだと思いますが、やはり当時の若い私には相当なプレッシャーとなりました。

自分のイメージにはまるアーティストを必死に探し、新宿で路上ライブをやっていたアーティストを発掘しデビューさせ、オリコンも14位にランクインしました。その時の達成感は格別で、その経験が今の私の基盤になっています。

キングレコードは、若い人でも熱意があれば成長するチャンスは、いくらでもある会社。それは、謳い文句でも何でもなく、私自身が実際に経験してきたことでもあるんです。